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サモエドの すずまる だよー!よろしくねー♪


by suzumaru-1110

私の「ちょうふ」と「とうふ」

伊豆古奈温泉の東府やさんにパンを買いに行ったことを、

生粋の伊豆の人に話していたら、

「ちょうふや」ではなくて、「とうふや」ではないかと訂正された。

そう、私が行ったのは「とうふや」さんなのだ。

でも知らず知らずの内に、私は「ちょうふ」と話していた。

私は何故自分が間違ったのか、思い当たることが有る。


私の生まれ育った北九州の隣、関門海峡を渡れば下関市の長府がある。

そこはなかなか風情のある町で、侍町には武家屋敷の白壁が今でも残り、

乃木神社に参拝し、功山寺毛利邸の庭を拝見し、梵天でひと休みが私のお気に入りの散策コース。


それが私が大人になってからの楽しみ方だったが、

それ以上に私の中にある長府はもっと意味がある。




私の父は小さな会社を経営していて、長府製作所とも取引があった。

時々父はそこに出向いていたのだが、小学校に上がる前の私を連れて行ってくれた。

いつもは多忙で私が起きている間には帰ることなどなく、なかなか顔さえ見れない父。

その父が運転する車で私は長府に行くのが、何よりも嬉しかった。

関門橋から見下ろすキラキラ光る早鞆の瀬戸。

私は身を乗り出さんばかりに、車窓からはしゃいで見た。

それは今でも鮮やかに、目をつむれば思い浮かぶ。

思えば仕事に邪魔なのに、私の喜ぶ顔をただ見たくて、父は連れて行ってくれたのだと思う。


そして長府に行く時は、私は友達や近所のおばちゃんたちに吹聴していた。

「明日、とうふに行くの」

そう、幼い私は「ちょうふ」が言えなかったのだ。

「とうふに行く」私の中では、父と二人で出掛けるかけがえのない、誇らしい出来事だったのだ。

近所のおばさんたちは、

「良かったね」

と私の話に合わせてくれていたのを覚えている。




長府に着いてからどうしていたのか、他の記憶は全くない。


二人だけで行った「とうふ」と、キラキラ光る海峡。

一緒に過ごした時間よりも、もう逝ってしまってからの方が長くなってしまったのに、

思い出すだけで、幸せになる特別なもの。
by suzumaru-1110 | 2012-10-27 20:22 | ネロリの小部屋